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3.がん患者でのアルギニンの抗がん作用の臨床試験
①Buijsらは、アルギニンが頭頸部がんの患者で延命効果および再発抑制効果を示し、完全治癒の患者も見られることを報告しました(Am. J. Clin. Nutr., 92, 1151 (2010))
【背景】
がん患者ではアルギニンの血中濃度が低くアルギニン代謝が異常状態にあることが考えられています。アルギニンは動物において免疫力を高め、がんの増殖を抑え、延命効果を示すことが報告されています。一方、頭頚部がんの患者は予後が悪いことが知られています。特に進行がんでは、がんの進行に伴い栄養不良の割合が増加します(全頭頚部がん患者の35~50%が栄養不良と報告されています)。この栄養不良が患者の予後をさらに悪くします。
【目的】
頭頚部がん患者のうち栄養不良の患者を対象に、アルギニンを手術前後に投与した効果を長期的に(10年以上)検討します。
【試験デザイン】
試験は「二重盲検ランダム化比較試験」(最も精度の高い試験)で行われました。栄養不良の頭頸部癌(口腔内、喉頭、中咽頭、下咽頭など)の患者32人(ステージIIIが5人、ステージIVが16人、再発がんが10人、その他が1人)はランダムにアルギニン群(17人)と対照群(15人)に分けられました。対照群の患者には標準の経腸栄養食を摂取させました。アルギニン群の患者にはアルギニンを強化した経腸栄養食を摂取させました。臨床効果は、生存期間、再発の程度などで評価されました。
【結果】
経腸栄養食は手術前にアルギニン群、対照群ともに約9日間摂取させました。手術後には各群とも10日間各経腸栄養食を摂取させました。それ以降は両群とも同じ食事(標準食)を摂取させました。アルギニン群のアルギニン摂取量は1日平均約50gでした(各患者の合計摂取量は平均1,015gでした)。
対照群の患者は全員(15人)が手術後ほぼ7年以内に死亡しました。一方、アルギニン群の患者は17人のうち3人が13年後も生存していました。手術後の平均生存期間は対照群で20.7ヶ月でした。一方、アルギニン群では34.8ヶ月で、アルギニン群が約1.7倍生存期間が長くなりました(この差は統計的に有意)。ちなみに、5年生存率は対照群で約7%でしたが、アルギニン群では約40%でした。がん関連死以外の死亡を除いた場合、手術後の平均生存期間は対照群で20.8ヶ月でしたが、アルギニン群で94.4ヶ月(4.5倍の延命効果)でした(この差は統計的に有意)。手術後の再発(局所再発)は対照群では6割(9/15例)に見られましたが、アルギニン群では約2割(4/17例)に見られただけでした。再発までの平均期間は対照群では10.6ヶ月で、アルギニン群では92.8ヶ月以上でした。なお、再発した患者の全員は観察期間中(約13年)に死亡しました。再発死については両群において統計的に有意に差がありました。一方、遠隔転移や二次原発がんについては対照群とアルギニン群では差は見られませんでした。
表.頭頚部がん患者におけるアルギニンの延命効果
試験群 | 生存数 | |||
2年後(概算) | 5年後(概算) | 8年後 概算) | 13年後 | |
アルギニン投与群 (17人) | 11人(65%) | 7人(41%) | 7人(41%) | 3人(18%) |
アルギニン非投与群 (15人) | 5人(33%) | 1人(7%) | 0人 | 0人 |
【解説】
種々の治療法の発展にもかかわらず、頭頚部がんの予後は一般にはかばかしくありません。その理由はがんの悪性度が高いのと再発のしやすさにあります。さらに頭頚部がん患者の35~50%に見られる栄養不良も予後不良の原因の一つになっています。
一般にがん患者では免疫力が低下しています。これががんの予後に悪影響を与えます。免疫力の低下は、栄養不良、手術や放射線等による侵襲、がんそのものによる免疫抑制、抗がん剤による免疫抑制などによって起こります。がん患者ではアルギニンの血中濃度が低下していることが知られていますが、これががん患者における免疫力の低下と関係があるのではないかと考えられています。アルギニンは免疫力を高めますのでその不足は免疫を抑制し、がんの予後に悪影響を与えると考えられます。実際、アルギニンは動物において、免疫力を強化し、がんの成長を抑え、延命効果を示します。これらのことから、アルギニンの補給はがん患者の免疫力を高め、がんの成長を抑え、延命効果を示し予後を改善することが期待できます。本臨床試験の結果はまさにアルギニンのこの働きを支持するものと考えられます。
では、がん患者ではどうしてアルギニンが低下するのでしょうか。がん細胞周辺ではアルギナーゼの活性が上昇していることが示されています。アルギナーゼはアルギニンを分解する酵素です。アルギニンの低下はがんの種類、がんのステージに関係なく生じることが報告されています。このようにしてがん細胞はアルギニンを枯渇させることで、自分が生存するために免疫系を調節しているものと考えられます。そのために、がん細胞を抑制するための免疫療法の一つのアプローチ法として、アルギナーゼの活性を抑制してアルギニン濃度を上げるか、アルギニンを摂取してアルギニン濃度を上げる方法が考えられます。それによって免疫系が強化されがん細胞を抑制することが期待できます。
本臨床試験では、進行性の頭頚部がん患者(ステージIII、IV、再発がんなど)に大量のアルギニン(1日平均約50g)を手術の前後約20日間投与することによって著しい延命効果が得られました。アルギニンを投与しない群では全員がほぼ7年以内に死亡しましたが、アルギニンを投与した群では17人中3人が約13年後まで生存していました(5年生存率は対照群で約7%でしたが、アルギニン群では約40%でした)。再発(局所再発)についてはアルギニンを投与しない群では6割に見られましたが、アルギニン投与群では約2割に見られただけでした。アルギニンのこれらの効果は驚くべきものと考えられます。
手術や放射線療法後の再発を防ぐために、あるいは手術や放射線療法による治療ができない末期がんの患者を治療するために通常用いられる化学療法剤は、延命効果を示す場合はありますが、一部のがんを除いてがんを完全に治癒することはできません。化学療法剤で治療していると一旦効いたように見えますが(がんが縮小したりして)、しばらくすると効かなくなってきます。延命効果は少しはあるかもしれませんが結局はがんで亡くなります。つまり、一部のがんを除いて、化学療法剤でがんを完全に除くことはできません。さらに問題なのは激烈な副作用があるということです。場合によっては副作用によってかえって早死にすることさえあります。
本臨床試験では、アルギニンの投与によってがんが完全に治癒できる可能性を示しています。これは恐らく、手術によってほとんどのがんが除去された後、微量の残ったがんが、大量のアルギニンによって誘導された免疫細胞やアルギニンによる直接作用によって完全に除去された結果であろうと考えられます。アルギニンは化学療法剤と異なり目立った副作用はほとんどありませんので、種々のがんに試してみる価値はあると考えられます。アルギニンによって示される抗がん力はがんの種類を問わず発揮されると考えられます。実際、いくつかのがんでアルギニンの抗がん効果を示す臨床例が報告されています。
次に、がんのアルギニン療法についてその課題を上げてみたいと思います。
●最適な投与期間はどのくらいでしょうか
アルギニンを手術前後の約20日間投与することで強力な抗がん効果が示されましたが、最大の抗がん効果を示す投与期間はどのくらいでしょうか。
●最適な投与量はどのくらいでしょうか
本試験では、アルギニンの投与量は1日平均約50gでしたが、この量が最適でしょうか。もっと少量でも同じように効果はあるのでしょうか。
●臨床例を増やし、再現性を検討する必要があります
本臨床研究では目覚しい結果が得られましたが、この結果を確実にするために臨床例を増やす必要があります。
●他のがんでも同じように効果があるかどうかをもっと検討する必要があります
●以上の課題が解決されたら、アルギニンは安全性面で問題がない、完全治癒も可能な画期的な抗がん剤となる可能性があります
②Zhaoらは、アルギニンが胃がんの患者で全生存期間および無増悪生存期間を延ばすことを報告しました(J Cancer Res Clin Oncol., 139, 1465 (2013))
【目的】
胃がんの患者において、栄養不良が高頻度に起こります。このような栄養不良の胃がん患者を対象に、本研究において、アルギニンの長期生存に対する効果が検討されました。本研究は「二重盲検ランダム化比較試験」(最も精度の高い試験)で行われました。
【方法】
対照群(36例)は手術後に標準経腸栄養食を摂取しました(術後7日間)。一方、アルギニン群(37例)はアルギニンを強化した(アルギニン9.0g/L)経腸栄養食を摂取させました(術後7日間)。評価項目は、全生存期間、無増悪生存期間です。血液検査項目は、全タンパク質、アルブミン、プロアルブミン、トランスフェリン、CD4(+)およびCD8(+)T細胞、NK細胞、IgM、IgGです。
【結果】
アルギニンを強化した食事を摂ったグループ(アルギニン群)では、標準食のグループ(対照群)に比べ有意に全生存期間が延長しました(アルギニン群41ヶ月、対照群30.5ヶ月でアルギニン群が1.34倍生存期間が延長)。またアルギニン群では無増悪期間も有意に延長しました(アルギニン群18ヶ月、対照群11.5ヶ月)。手術後7日目のCD4(+)T細胞、NK細胞、IgM、IgGレベルは、対照群や手術前1日目に比べて、アルギニン群で顕著に増加していました。他の項目は両群間で差は見られませんでした。
【結論】
このようにアルギニンの摂取によって、栄養不良の胃がん患者の生存期間が延長し、免疫系が強化されました。
【解説】
本臨床試験は、胃がん患者においても、アルギニンは全生存期間や無増悪期間を延長することを示しています。また、他の種々の文献でも示されたように、アルギニンは免疫系を増強することも示されました。しかしながら、本試験の結果は、Buijsらによる頭頚部がんの患者での結果に比べると効果が弱いように感じられます。その理由としては、がん種の違い、投与期間や投与量の違いなどがあげられます。
③Maらは、アルギニンが結腸直腸がんの患者で、がんの成長を抑制することを報告しました(Clin Cancer Res., 13, 7407 (2007))
【目的】
結腸直腸がんの大部分は腺腫(アデノーマともいい、腺組織の上皮から発生する腺上皮細胞に類似する良性腫瘍、例えばポリープなど)から生じることが知られています。一方、アルギニンは結腸直腸がんの発生を抑えることが報告されています。そこでアルギニンは結腸直腸腺腫のがん化の過程を抑制するのではないかと考えられました。本研究の目的は、アルギニンが結腸直腸がんの生成や成長にどういう効果を示すか検討することです。
【方法】
試験は「二重盲検ランダム化比較試験」(最も精度の高い試験)で行われました。結腸直腸がんの患者(60名)と結腸直腸腺腫の患者(60名)をそれぞれ各2つのグループ(各30名)に分けました。アルギニングループには、毎日30gのアルギニンを3日間摂取させました。測定項目は、PCNA*1、サバイビン*2、NOS(一酸化窒素合成酵素)*3、ODC(オルニチン脱炭酸酵素)*4、一酸化窒素(NO)濃度でした。
*1PCNA(Proliferating Cell Nuclear Antigen)とは、増殖細胞核抗原ともよばれ、細胞増殖の指標の一つです。PCNAの過剰発現は一般的にがんの進行やがん患者の予後を評価する信頼できるマーカーとして用いられています。
*2サバイビンとは、アポトーシスを阻害するたんぱく質です。アポトーシスとは、生物の体内でいらなくなったり、異常を起こした細胞(がん化した細胞を含む)において、細胞自らが積極的に引き起こす細胞死です。ところががん細胞ではこのアポトーシスの機能が阻害されているといわれています。それががん細胞が異常細胞であるにもかかわらず生存し続け無限に増え続ける理由の一つになっていると考えられます。がん細胞でアポトーシスが阻害されている原因の一つにサバイビンが関与しています。サバイビンはほとんどの正常細胞では発現が認められず、一方多くのがん細胞で発現が認められています。さらにサバイビンの発現量ががんの悪性度や予後と相関していることが報告されています。そのため、その発現を阻害することでがんのアポトーシスを促進しがんを抑制できると考えられます。実際サバイビンの発現を抑制することで抗腫瘍効果が示されています(現在サバイビン阻害薬は抗がん剤として臨床試験中です)。
*3NOS(一酸化窒素合成酵素)とは、アルギニンと酸素から一酸化窒素(NO)を合成する酵素です。NOSにはeNOS、nNOS、iNOSがあります。eNOSとnNOSは正常組織に発現し健康を保つためのさまざまな働きに関係しています。iNOSは炎症細胞やがん細胞などに発現します。iNOSによる高濃度のNOはがん細胞の抑制や細胞毒性を引き起こします。これらの酵素はアルギニンが十分にある条件ではアルギニンと酸素からNOを生成します。一方アルギニンが不足した状況では酸素から活性酸素のスーパーオキシドを生成します。スーパーオキシド、あるいはそれから生成した種々の活性酸素は遺伝子等を傷つけて細胞のがん化を引き起こします。
*4ODC(オルニチン脱炭酸酵素)はオルニチンからポリアミンを生成する酵素です。ポリアミンは正常細胞やがん細胞の成長を促進します。がん細胞ではODCが高度に発現しポリアミンの生成量が増加しています。がん細胞の成長や増殖はODCやポリアミンの増加したレベルに依存していることが示されています。そのため、ODC活性の抑制はがん細胞の成長や増殖を抑制するものと考えられます。
【結果】
全ての患者は試験を完了しました。アルギニン摂取による副作用は見られませんでした。
結腸直腸腺腫の患者で、腫瘍部位のPCNAは腫瘍周囲の組織や正常部位の組織に比べ顕著に増加していました。一方、腫瘍周囲の組織と正常部位の組織の間には有意な差は見られませんでした。アルギニンを摂取させた結腸直腸腺腫の患者では、摂取前に比べ腫瘍部位のPCNAが有意に低下していました。一方、腫瘍周囲の組織と正常部位の組織では摂取前と摂取後で有意な差は見られませんでした。
結腸直腸がんの患者では、組織のPCNAは正常組織、腫瘍周囲組織、腫瘍組織の順に増加していました。また、これらの患者では腫瘍組織のPCNAは結腸直腸腺腫の患者のそれに比べ有意に高値でした。結腸直腸がんの患者では、腫瘍組織および腫瘍周囲組織のPCNAはアルギニン摂取後に有意に低下していました。正常組織ではアルギニン摂取の影響はみられませんでした。
サバイビンの発現は正常および腫瘍周囲組織では認められませんでした。サバイビンは腫瘍組織でのみ発現していました。サバイビンは結腸直腸がんの患者よりも結腸直腸腺腫の患者で有意に高値でした。アルギニンの摂取によって両患者のサバイビンの発現は有意に抑制されました。
結腸直腸腺腫および結腸直腸がんの患者の腫瘍組織ではiNOSが発現していました。一方、正常組織および腫瘍周囲組織ではiNOSは発現していませんでした。両患者の腫瘍組織のiNOSの発現はアルギニンの摂取によって明らかに増加していました。結腸直腸がんの患者の血中NOのレベルはアルギニンの摂取によって有意に増加していました。
結腸直腸腺腫の患者の腫瘍部位のODC活性は、正常組織や腫瘍周囲組織に比べ有意に増加していました。結腸直腸がんの患者でも同様の結果でした。しかし、腫瘍組織のODC活性は結腸直腸腺腫の患者よりも結腸直腸がんの患者で高値でした。アルギニンの摂取によって腫瘍組織のODC活性は有意に低下しました。
【考察】
結腸のクリプト細胞の過増殖が結腸直腸がんの生成や増殖に明らかに関係していることが考えられています。PCNAは細胞の増殖の程度を表す指標の一つです。PCNAの過剰発現はがんの進展、前がん状態の進展具合、がん患者の予後を評価するための信頼できる指標として一般的に用いられます。本臨床研究では、結腸直腸がんの患者の腫瘍組織のPCNAの発現は正常組織や腫瘍周囲組織に比べ有意に増加していました。また、結腸直腸腺腫の患者よりも結腸直腸がんの患者で有意に増加していました。アルギニンは腫瘍組織でのPCNAの発現を抑制しましたので、アルギニンは結腸直腸腫瘍細胞の過増殖を抑制し、その結果患者の予後を改善することができると考えられます。
サバイビンの過剰発現はがん細胞のアポトーシスを阻害し増殖を促進すると考えられます。サバイビンは結腸直腸がんのがん細胞で顕著に発現しています。また、サバイビンは結腸直腸腺腫でも同等以上に発現していました。このことは腫瘍形成の初期段階においてサバイビンの過剰発現が起こること、そしてこれが結腸直腸がんの腫瘍化と密接に関係していることを示しています。そしてまた、サバイビンの発現が結腸直腸がんの患者の予後の指標になると考えられます。従って、サバイビンを抑制することでがんが抑制されると考えられます(現在サバイビン抑制剤は臨床試験中です)。本研究において、サバイビンの過剰発現はアルギニンの摂取によって顕著に抑制されたため、アルギニンはがん細胞の増殖を抑制することが期待されます。
腫瘍細胞において、高濃度のNOの存在は腫瘍細胞の増殖を抑制したり殺細胞性を示します。本試験におけるアルギニン摂取による腫瘍細胞中のiNOS発現の増加とNO濃度の上昇は、腫瘍細胞の増殖の抑制や殺細胞に結び付くと考えられます。
ポリアミンは正常細胞と腫瘍細胞の両方の細胞増殖に関係しています。ODCはポリアミン合成の最初の段階に関係する酵素です。ODCはオルニチンからポリアミンのプトレッシンを合成します。ODCはがん細胞で異常に増加しています。その結果多くのがん細胞でポリアミンレベルは高値を示します。腫瘍の悪性化への発展と進行はODCとポリアミンレベルの上昇に依存しています。そのため、粘膜のODC活性を評価することは、人の大腸と上部消化管における悪性腫瘍のリスクの指標として有用である可能性があります。また、ODC活性の抑制は抗がん作用を示す可能性があります。
人の結腸がん細胞を用いた試験で、NOはODC活性を阻害することで細胞増殖を抑制するのではないかという報告があります。本臨床研究で、アルギニンはiNOS発現の増加とともに血中NOレベルをかなり増加させました。一方、ODC活性は低下しました。このことは、アルギニンはNOの生成を増加させ、それによってODC活性を阻害し、細胞増殖を抑制したものと考えられました。
本研究において、アルギニンは腫瘍細胞の増殖を選択的に阻害しました。一方、正常細胞には影響はありませんでした。腫瘍細胞のように細胞の代謝が高くなっている場合、より多くのアルギニンが必要とされます。しかし、がん患者ではアルギニンの血中濃度が低いことが知られています。アルギニンの低下はがんの種類、がんのステージに関係なく生じることが報告されています。がん細胞周辺ではアルギナーゼ(アルギニンを分解する酵素)の活性が上昇していることが示されています。ではここに(本試験のように)大量のアルギニンを一気に摂取させたらどうでしょうか。アルギニンは腫瘍細胞あるいはその周辺にも高濃度に分布し、アルギナーゼによる分解が抑制され(あるいはアルギナーゼによる分解を超えて)、腫瘍細胞内で(腫瘍細胞特異的に生成が増加したiNOSによって)高濃度のNOが産生し、生成したNOが上で述べたような種々のメカニズムで腫瘍細胞の増殖を抑制したり殺細胞性を示すものと考えられます。正常細胞ではiNOSはほとんど発現しませんので、腫瘍細胞特異性が見られたものと考えられます。
【まとめ】
本臨床研究において、アルギニンは結腸直腸がんの形成や成長を抑制する可能性が示されました。このアルギニンのがん抑制効果は、アルギニンよるサバイビンの発現の抑制、iNOSの発現の増加によるNOの生成増加、ODC活性の減少が関係しているものと考えられます。
4.アルギニンの免疫増強作用および動物での抗がん作用のデータ
アルギニンの臨床効果を補完するデータとして、アルギニンの免疫増強作用(人および動物)および動物での抗がん作用のデータをご参考のために以下に示します。
なお、ここで特筆すべきは、アルギニンの免疫増強作用や抗がん作用が動物でも人でも同様に見られたということです。このことはアルギニンの免疫増強作用や抗がん作用が動物と人で同じか類似のメカニズムで生じたということだと考えられます。
①アルギニンが動物および人で免疫増強作用を示す多くの報告があります(O. Eremin, ed. L-Arginine: Biological aspects and clinical application. Chapman & Hall 1997: 27-77; Nutrition, 1998; 14: 611-617)。
②Reynoldsらは、アルギニン(餌の中に1%含有)の摂取によって、マウス(CBA/Jマウス)の胸腺重量、脾細胞分裂増殖、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)(がん細胞傷害性リンパ球)活性、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK細胞)(リンホカインによって誘導されたがん細胞傷害性の強いリンパ球)生成、マクロファージ(がん細胞を傷害します)活性が増加することを示しました(Ann. Surg., 1990; 211: 202-210)。
③Parkらは、アルギニンが健常人(健康な人)のNK細胞およびLAK細胞活性を増加させることを示しました(Lancet, 1991; 337: 645-646)
アルギニンは、人からとった末梢血リンパ球のNK細胞活性とLAK細胞活性(IL-2によって誘導)を増強しました。健常人にアルギニン(1日30gまたは10g)を3日間摂取させたところ、NK細胞活性およびLAK細胞活性は有意に増加しました。
④Brittendenらは、アルギニンが乳がん患者の免疫を増強することを示しました(Surgery, 1994; 115: 205-212)
乳がん患者にアルギニン(1日30g)を3日間摂取させました。アルギニン摂取によって、乳がん患者の、NK細胞およびLAK細胞の細胞傷害性は有意に増加しました。
⑤Brittendenらは、アルギニンが、乳がん患者において化学療法剤によって抑制された免疫反応を改善することを示しました(Eur. J. Surg. Oncol., 1994; 20: 467-472)
乳がん患者はCHOP化学療法(シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾンの多剤併用療法)を受けたあと、14日目に最大となる一過性の免疫抑制を生じました。化学療法の前、アルギニン(1日30g)を3日間摂取させると、化学療法剤による患者の免疫抑制はより少なく、また、発現が遅延しました。アルギニン摂取によって、化学療法を受けた患者のNK細胞やLAK細胞の細胞傷害性は促進されました。
①Milnerらは、アルギニンが、マウスに移植したエールリッヒ腹水がんの増殖を抑制し、延命効果があることを示しました(J. Nutr., 1979; 109: 489-494)
エールリッヒ腹水がんを移植されたマウスにおいて、アルギニン(餌の中に3%または5%含有)の摂取は、マウス腹腔内のがん細胞数を有意に減少させました。また、そのマウスの50%が死亡するまでの期間はアルギニン摂取によって約2倍に増加しました。
②Burnsらは、アルギニンが化学物質によるがんを抑制することを示しました(Carcinogenesis, 1984; 5: 1539-1542)
がんはラットに7,12-ジメチルベンズ[a]アントラセンまたはN―メチルーN―ニトロソ尿素を投与することで発生させました。アルギニン(餌の中に5%含有)の摂取によってラットの接餌量や成長は影響を受けませんでした。アルギニンは、週ごとのがん発生数、がん重量増加を有意に抑制しました。アルギニンは化学物質の代謝活性化に影響しなかったことから、化学発がんの過程に抑制作用を示すと考えられました。
③Reynoldsらは、アルギニン(餌の中に1%含有)の摂取によって、神経芽細胞腫(ネズミ由来)を有するマウス(A/Jマウス)のがん細胞の増殖が抑制され延命効果が認められることを示しました。アルギニンの摂取は、T細胞の機能を促進し、リンパ球のがん細胞傷害性を有意に増加させました(Ann. Surg., 1990; 211: 202-210)。
④Hesterらは、アルギニンが、扁平細胞がんマウスモデルでがん細胞の増殖を抑制することを示しました(Arch. Otolaryngol. Head Neck Surg., 1995; 121: 193-196)
扁平細胞がんマウスモデルに、アルギニン(餌の中に5%含有)を摂取させたところ、がん重量は有意に抑制されました。また、がんの転移は抑制される傾向にありました。
⑤Rowlandsらは、アルギニンが、化学物質によるがん発生を抑制することを示しました(World J. Surg., 1996; 20: 1087-1091; J. Surg. Res., 1999; 81: 181-188)
ラット(ウィスターラット)を4群に分け、それぞれに1,2-ジメチルヒドラジン、1,2-ジメチルヒドラジンとアルギニン(飲水中に1%含有)(22週間投与)、または1,2-ジメチルヒドラジンとアルギニン(飲水中に1%含有)(最初の10週間だけ投与)を投与し、結腸直腸がんの発生に対するアルギニンの効果を検討しました。その結果、アルギニンの投与によって、がん発生数、がん重量、およびがん領域は有意に抑制されました。また、胸腺リンパ球活性は有意に増加しました。
⑥Lubecらは、アルギニンの長期投与によって、がんの発生数が抑制され、生存数が増加することを示しました(Life Sci., 1996; 58: 2317-2325)
マウス(各150匹)に、アルギニン(1日50mg/kg)またはタウリン(1日50mg/kg)を1年間経口投与しました(実験動物としてのマウスの寿命は大体2年半くらいですので、一生のうちの約4割の期間アルギニンを摂取させたことになります)。比較のため薬剤を投与しない群(コントロール群)を設けました。その結果、アルギニンの投与によって、マウスの生存数はコントロール群に比較し有意に増加しました(アルギニン投与群の生存数132匹、タウリン投与群の生存数122匹、コントロール群の生存数116匹)。腫瘍数(悪性と良性)はアルギニン投与群で有意に減少しました。一方、タウリン投与群では良性腫瘍数のみが有意に減少しました。アルギニンとタウリンはリンパ球を活性化し免疫系を増強します。アルギニンはマクロファージを活性化し腫瘍細胞傷害性を増強します。両化合物は脂質過酸化を抑制します。これらの作用によって、アルギニンは腫瘍の発生を抑え、生存数を増加させたと考えられました。
⑦Novasらは、アルギニンががんの転移を抑えることを示しました(Ann. Nutr. Metab., 48, 404 (2004))
アルギニンは動物においてがんを抑えることが報告されています。また、動物のみならずがん患者においても免疫を高めることから、がんの転移に対する効果を調べるとともに予後についても検討されました。
ラットの腹腔にWalker 256腹水がんを移植した後、4-6%のアルギニンを溶かした水溶液、またはアルギニンを含まない水溶液を経口投与しました。アルギニンを投与したラットではアルギニンを投与しないラットに比べがんの転移は明らかに少なかった。がんによって引き起こされた貧血はアルギニンを投与したラットにおいてより軽度でした。
これらの結果からアルギニンはがんの転移を抑えるとともにがんの予後にも良い影響を与えることが示されました。
【考察】
がんは転移さえしなければ普通のおできとあまり変わらず、できものを手術でとってしまえばほとんど完治するはずです。しかし、ほとんどの場合がんはある程度大きくなると転移するので、元の部分をとったとしても転移した場所でまた大きくなり、それが繰り返され全身ががんだらけになって死んでしまうのです。そのため、転移が完全に抑えられればがんはちっとも怖くない病気になります。また、転移が完全に抑えられなくても転移をできるだけ抑えることができれば、老衰で死ぬまでがんによって死ぬことはなくなるかもしれません。ところが、現在の医学では転移を完全に抑えるどころかできるだけ抑えることさえもできません。転移を抑える可能性があり、期待されているもののひとつとして免疫を強めるものがありますが、まだ満足いくものはないようです。
アルギニンは、動物や正常な人だけでなくがん患者においても強力に免疫力を高めることが示されていますので、転移についても抑える可能性があります。この文献は動物においてアルギニンががんの転移を抑えることができることを示していますが、人においてもがんの転移を抑えることが期待できると考えられます。
(2020年1月14日記)
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